見つけやすく治りやすいのに…年間5万人が落命
今日(8日)は、二十四節気の第17番目にあたる『寒露』です。
「露が冷気によって凍りそうになるころ」と言われますが、今年は季節はずれの陽気に見舞われた初旬でした。昼夜の寒暖差も大きく、暑さと冷えの両方に気をつける必要があります。
一般に体調管理と言えば、普段の生活習慣を正常に保つことが何よりの基本ですが、病気の発見となると「健康診断」や「がん検診」がきっかけとなる場合が多くあります。
「日本は世界でもトップクラスの長寿国」というのは、もはや国民の共通認識となっています。厚生労働省が今年7月30日に発表した2018年における日本の平均寿命は、女性が87.32歳、男性が81.25歳です。
一方、日本人の死亡原因の第1位が「がん」であることは、1981年以来、変わりありません。現在では、年間36万人以上の国民ががんで死亡しており、これは3人に1人が“がん”によって亡くなっていることを示唆しています。
しかしながら、実はほとんどのがんで死亡率そのものは下降しているのです。まず、がんにならないための生活習慣の啓蒙をはじめ、健康診断やがん検診による早期発見、がん発症のメカニズム解明と医療技術の進歩などが要因です。
そのようななか、罹患率、死亡率ともに高止まりしているのが“大腸がん”です。罹患者数は全がん中1位、死亡者数は2位(女性では1位)。大腸がんについては、しばしば「サイレントキラー」という言葉が用いられます。つまり、いつの間にか進行し、気づいたときには手遅れになっているという意味です。
ただし勘違いしてはいけないのが、大腸がんは膵臓がんやスキルス性胃がんなどのように「検査でも発見が難しい」というものではありません。むしろ、がんのなかでも特段に発見しやすいのです。
事実、アメリカでは国策として検診の受診率を上げることで、死亡者数の減少に成功しています。
日本の検査・医療技術は世界でトップクラスにあるにも関わらず、大腸がんで命を落とす人が減らないのは、便秘や下痢などお腹の不調を軽く考え、便潜血で疑いが出ても「痔だろう?」と甘く解釈して放置することに重大な問題があります。結局、アメリカでは大腸がんを早期発見して小さいうちに内視鏡で取り除く手法が定着していますが、日本は遅れているのです。
そこには日本人の特性もあるかも知れません。
たとえば、アメリカの女性人類学者ルース・ベネディクトは著書『菊と刀 日本文化の型』のなかで西欧的な「罪の文化」に対し、日本人の生活に見られる「恥の文化」は、他者の非難や嘲笑を恐れて自らの行動を律すると述べています。
この日本文化論は、極端過ぎると思われますが、「恥ずかしい」という思いが私たちの日常において行動を決めている場面は少なくありません。
「検便はイヤ」、「便潜血があったからといっても多分、痔だと思う。そんなことでお尻をのぞきこまれたくない」などの理由で検診をおろそかにしないでほしいと切に願います。
●大腸がんの症状
◇早期の段階では自覚する症状はほとんどなし
↓
◇進行すると症状が…
・血便、下血、粘血便
・便秘と下痢の繰り返し
・便が細くなる
・残便感
・お腹が張る
・しこり
↓
◇さらに進行すると…
・原因不明の体重減少
・腸閉塞による腹痛、嘔吐、貧血
早期発見ができれば、大腸がんはほかのがんに比べて、けっして怖い病気ではありません。
内視鏡検査時の切除方法なら負担は少なく済みます。ただ、内視鏡治療が行えるのは、がんが粘膜内か粘膜下層の浅い部分に留まり、リンパ節への転移の可能性がほとんどない場合のみ。それより浸潤が深ければ転移の可能性が高く、別途外科手術や薬物治療が必要です。また、内視鏡切除を行った場合でも、病理検査で転移の可能性が判明した際は、追加の手術が必要となるケースがあります。
○軽度なら内視鏡治療
○重度なら外科治療(開腹手術、腹腔鏡下手術)、薬物治療、放射線治療
大腸がんの正確な発症原因はまだ判明していませんが、統計的には遺伝要因、偏食や乱れた生活、肥満、運動不足、過度の飲酒、喫煙、ストレス、便秘・下痢などはリスクを高めることが分かっています。
まずは、「病気にかからないこと」を目標に、もしかかったとしても早期発見、早期治療を心がけたいものですね。