名称の混乱、よもやま話

imbマツタケカテゴリーしめじ

アイ・エム・ビー(iMb)が1997年、ホンシメジの商業的人工栽培に成功したときのことです。

ホンシメジとは、マツタケと同様、生きた木の根と菌根を形成して生育する「菌根菌」と呼ばれるキノコです。ホンシメジも人工栽培が極めて難しいと言われていましたが、マツタケの菌根の作り方とやや異なっており、菌株のなかには菌根性が低いものがあることが示唆されていました。一部では試験的に栽培に成功したという話もあります。
ただし、人工栽培と謳うからには、生産量を人為的にコントロールできなければ商業化はできません。

私たちはその意味で、最先端にいたと思います。ところが、市場の声はけっして芳しくはありませんでした。それは、当時、栽培が容易なブナシメジがホンシメジの名前で広く安価に販売されていたからです。たとえば、今関六也・大谷吉雄・本郷次雄編著『日本のきのこ』(山と渓谷社 1988)には、「たくましい商魂は、ブナシメジの栽培品をホンシメジと偽って、和名を混乱させた」と嫌味たっぷりに記されています。
しかし、この裏には玉突き衝突のような現象がありました。まず、シメジとは何の縁もないヒラタケが堂々と「シメジ」の名前で広められたために、つぎに登場したブナシメジは、「ホンシメジ」とでもしなければ行き場がなかったのです。
 
割りを食ったのが、正真正銘、本物のホンシメジです。市場関係者からは、偽物であろうとすでにホンシメジがこれだけ広まっている世間で、いまさら、「これがホンシメジ」と言ったところで、高値の取引はできないし、多くの消費は見込めないという見解でした。多勢に無勢、短期間のうちに市場関係者や消費者の認識を変えることは残念ながら零細企業には不可能と判断しました。ただし、私たちは将来的にこの技術を確立した証を残すべく、特許を取得。『菌根菌の子実体の人工菌床栽培方法』(特許第3821320号)
 
マツタケも名称の混乱期がありました。
学名は、和名を入れた「Tricholoma matsutake」ですが、1999年、スウェーデンのE. DanellらがDNA解析により、それまで近縁種とされていたヨーロッパ産のキノコ(T. nauseosum)とマツタケが同一であることを突き止めたのです。T. nauseosumのほうがマツタケ(1925年)より20年前(1905年)に学名を付けられていたので、そちらが本来の名称となるのですが、有名なT. matsutakeを保存名として学名は変更しないということになりました。なお、nauseosumとは、英語のnauseousに相当し、「吐き気を催させる、むかつかせる」というような意味ですので、ヨーロッパの人たちにとっては、なぜ日本人がこれほどマツタケ好きなのか不思議に感じていることでしょう。

imbマツタケカテゴリーマツタケ

実は、アガリクスも名称が混乱したひとつなのです。
アガリクスとは一般にハラタケ科のキノコを指します。そのなかには、食用キノコとして世界で最も栽培量が多い、「マッシュルーム」も含まれています。マッシュルームの和名は「ツクリタケ」、学名は「Agaricus bisporus」。
 
では、現在、私たちがアガリクスと呼んでいるキノコは何なのでしょうか?
  
アメリカの科学者であるペンシルベニア州立大学のW.J. Sinden博士とLambert研究所のE.D. Lambert博士らが率いる研究班が、1960年代初めにブラジル・サンパウロの郊外、ピエダーデ山地で暮す住民たちに成人病が極端に少なく長寿であることに着目し、常食としている「アガリクス」の存在を発見。アメリカに持ち帰り研究を開始しました。そして「アガリクス」には他に類を見ない貴重な成分が多数含まれていることがわかったのです。その後も様々な学者によって研究が進み、食効としての機能性の高さを示す研究成果が次々に発表されて、世界的にも知られるようになりました。
 
「アガリクス」と日本との関係は、ピエダーデ近辺で農業を営まれていた古本隆寿さんが、1965年に日本へ送付したキノコ菌に由来します。その菌は、ベルギーのHeinemann博士によって学名「アガリクス・ブラゼイ・ムリル(Agaricus blazei Murrill)」であると同定。和名は、「カワリハラタケ」「ヒメマツタケ」と名付けられました。
  
商品名として、「アガリクス」や「アガリクス茸」、あるいは和名のひとつ、ヒメマツタケからとられた「姫マツタケ」などがありますが、まず同種のキノコが原料素材となっているはずです。包装資材の表示をご確認ください。
 
ところが、これで一件落着とはなりませんでした。
1990年代の中ごろまで、キノコの分類は形態的特徴のみにもとづいて整理されていました。しかし、近年、DNAを調べる技術がキノコにも盛んに活用されるようになって、これまでの分類を見直す必要が出てきたのです。前述のとおり、明らかにマツタケの仲間ではないのに、ヒメマツタケという和名が付けられたのは、牧歌的な時代背景があったことも無関係ではありません。
 
そのような流れのなか、私たちが「アガリクス」と呼んでいる「Agaricus blazei」や、その他、「Agaricus brasiliensis」は、それらより早く命名された「Agaricus subrufescens」のsynonym(シノニム)、つまり“別名”と考えるのが正しいのではないかと言われはじめました。
  
ただし、統一した見解ではなく、一方ですでに弊社の「アガリクス」が1998年、旧・農林水産省 森林総合研究所(現・国立研究開発法人 森林研究・整備機構)によって、「Agaricus blazei Murrill」と正式に鑑定されていること、世界中で人口に膾炙されていることから、変更はしていません。